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建築士会コラム

役員リレーコラム「日本の建築施工の将来を想う」 高松支部 理事 谷口邦彦

今月号のコラムを担当させていただきます谷口です。常日頃大変お世話になります。

私も一応建築士として士会の役員に名を連ねさせていただいておりますが、私自身は建築士というより建設会社の経営者として日々建築に取り組んでいますので、建築士といわれると少しおこがましい気持ちを感じなりながらも日頃想うことを綴らせていただきたいと思います。

建設請負の生業にかれこれ35年間携わっておりますが、建築のデザインや構造、仕上げ、価値観の多様性やその奥深さには日々驚かされます。と同時に疑問や危機感を感じることも多々あります。

私は東京の大学でPCコンクリートの強度の研究を専門に土木工学を4年間学びました。当時、実兄は優秀な大学の建築学科に進んでいたので、弟の私の方は土木を学んでおけば将来家業の何かの役に立つだろう、との両親の目論見からの専攻でした。しかしその後、両親の思惑はみごとに外れ、兄は家業を継がずに東京に留まる道を選択します。期待の後継者を失った両親は、『おまえでええから帰ってこい』との命を私に下し、出来の悪い次男の私が会社を継ぐことになったのです。子供の頃には建築現場や材木の加工所を遊び場にしていましたので、建物を建てることに興味はありましたが、まさか将来自分が建築士になり会社を背負って立つ人間になろうとは想像すらしていませんでした。

人生計画の一大転換事に心構えができていない私は、帰郷する前にせめて一年だけアメリカに留学し自由を満喫させてくれ、と両親に願い出ます。思い切って未知の世界に飛び込み、真の自信を身につけたかったのが本心だったように思います。そしてカリフォルニア州立大学のサンディエゴ校に入学することになります。

その留学時代にふれたカリフォルニアの公共施設やアパート、住宅には大いに驚かされたものでした。奇抜なデザインの建築物もごくたまにはあるのですが、たいていは非常にシンプルな構造で、住宅などは2×4の至ってコンサバティブなものでした。日本の住宅に見る檜の柱や土壁屋根瓦などのように職人が手間暇かけて造り上げるというものではなく、文化や気候、国民性の違いによるものなのでしょう。極めて合理的にシンプルな住まいを機能性重視の道具のように造っているという印象でした。費用のかけどころはその後の家具や鋪設、プールやバーベキューガーデン、ビリヤード室など、生活を快適に楽しむためのツールに使われているようでした。若かった私は建築に対する米国の価値観に非常に影響を受けて帰国したように思います。

その後帰郷し、当時の総務省主催の「海外青年の船」という事業に参加。50日間、客船日本丸で200人以上の日本各地とオセアニア地域の若者達と、アジア・オセアニア5ヶ国を巡る旅に出て、各国の文化や建築物などを見学したり、仕事に就いてからは建材共同購入でアジア各地を何度も訪れました。新工法の勉強のためにヨーロッパを巡る研修ツアーにも出来る限り参加したりもしました。海外の新しい工法やリーズナブルな建材資材を導入し、自社マンションの基礎には鉄パネル型枠、躯体の型枠はドイツから購入した何十回も転用できるアルミ型枠などを利用、仕上げには海外の安価で高級なタイルやレンガを使い、コストと品質や精度を追求することに没頭したのもこの時期です。その取り組みは25年以上も前の建築工法としては画期的なものでした。
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思い返せば感性の柔らかな時期にずいぶん海外の建築物や文化にふれる経験をさせてもらえたことに感謝するばかりです。世界を見渡しても日本独特の建築工法や仕上げの美しさは世界でもトップレベルだとつくづく感じ入ります。しかしそれは鍛えられたレベルの高い日本人の職人技術者だからできるものです。

海外の先進国ではすでに職人や技術者が少なく、低賃金の後進国からの労働者で成り立っているのが実情のようですから、今後、日本もそれに近い時代が必ずやって来ます。ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国では移民などによる有り余る労働力を合理的に利用するため、RC造建設工事ではシステム型枠による、躯体設計からの効率的な“建築躯体工事のシステム化”をどんどん推し進めています。

日本古来の技術においては後世に守り伝えてゆくためにそれなりの対価をしっかり保証し、後継者を育成していかなければならないのは言うまでもありませんが、一般的な建築に至っては外国の言葉の通じない技術者達にでもできる工法を取り入れていかないと成り立たなくなっていくことでしょう。現場施工の工事も工場生産現場組み立てや機械化の方向です。

そのように間近に迫る時代に対して、建物の価値観を私たちも見直していくことが大事だと思います。品質をより一層向上させ、快適で安全に使える建築は依然求められますが、施工の生産性は今以上に効率化していかなければならないと大変危機感を持つところです。

変化していく世界や日本の建築における現実に、建築士としてまた経営者としてこれからますます対応を迫られるであろうと身の引き締まる昨今です。
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