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役員リレーコラム「便利さと豊かさ」 広報編集委員会副委員長 松浦仁郎

先日、住宅のプランを考えているとき、ふと子供の頃に住んでいた家を思いだしました。設計の仕事をするようになってちゃんと意識したのは初めてかもしれません。そこはRC造2F建ての小さな5軒並びの長屋でした。間取りは1階に6畳×4室の田の字型プランで2つが木造で増築されたもの。2階は6畳ふたつ分の広さです。ここに家族5人で暮らしていました。1階の1/4に玄関とトイレ、階段があり、1/4は居間兼両親の寝室、1/4は木造の台所、残りの1/4は木造の土間空間で小さなユニットバスと洗濯機置き場と倉庫を兼ねていて屋根は半透明の波板でした。2階は6畳の子供部屋と階段を挟んで4畳の子供部屋です。当時の記憶を頼りに間取りを描いてみると、土間の部分も含めて60㎡にも満たない家です。しかし、少年時代の僕は特に不便だった記憶がありません。

それはなぜかと考えてみると、1階の1/4にあたる土間空間があったからだと思います。そこは半屋外的空間で屋根からは光が降り注ぎ、雨が降ればパラパラと音がして、夏は暑く、冬は寒かったはずです。そこにはむき出しの小さなユニットバスや洗濯機があり、倉庫も兼ねていました。物干し場所でもあり勝手口もありました。いろんな役割を兼ねていて名前を付けられない空間です。外なのか中なのかわからない、家の中で一番明るい場所でした。当時少年だった僕はそこに強烈な何かを感じていたと思います。

設計をしている今の感覚で言うと、一番明るい土間空間と暗い居間兼寝室の明暗、堅いコンクリートと仮設的な木造のコントラスト、それらが6畳の反復するプランの中に混在して、小さな家に多様さと奥行きを生んでいたんだと思います。僕が子供だったこともありますが、それが60㎡の家でも不便だと感じなかった理由かなと思います。お世辞にも便利な家だったとは言いませんし、両親にしてみれば不便を感じていたかもしれません。でも、あれは豊かな空間だったなと思います。

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 今、PinterestやInstagramなどで住宅のイメージを探せばいくらでも溢れています。ほとんどの人がそれを持ってきてこんな感じがいいですと見せてくれます。こっちもいいんです。これのこの部分がいいなど…。イメージは参考にさせていただきますが、その通りにプランすることはありません。それをつなぎ合わせても残念ながらいい家はできないからです。たいていの人は、そのイメージを本当には理解できていないからです。情報が簡単に手に入るという便利さは同時に、情報が多すぎて迷子になるという不便さと、自分で想像するという思考を奪っています。

僕はいつも、「人の暮らしは自由で豊かなもの」だと思っています。決してひとくくりのパターンに押し込むことができません。だからプランもその人に合うように自由な発想で考えるのが普通だと思っています。なるべく家とはこういうものだという、思い込みをしないように心掛けています。人が自由に暮らす場所を家と呼んでいるだけだと。10家族いれば、10通りの暮らしがあるのが本来の姿ではないでしょうか? ある人にとって便利なことは別の誰かにはいらないものだったり、逆に不便なことだったりするのです。

便利さや機能は大切ですが決して最優先ではないのです。例えば便利だからと言って収納を増やすと、いらないものまで買って物が増えてしまい、少なければ本当に必要なものは何かを考えて物を買うようになるというように。便利さや機能性だけを追求してもそれは豊かさとは限らないのです。その行き着く先はワンルームの部屋の中にトイレや浴室、キッチンなど全てがある家になってしまいます。それは本当に豊かなことかな?と思います。

その家に愛着を持てるか、そこで自由に暮らせるかのほうが大事ではないでしょうか。愛着のあるものは大切に使いますし、少し不便で面倒でも「かわいいヤツだな」と思いながらちゃんと手入れをします。その人が愛着を持ち、自分らしく活き活きと豊かに暮らしていけるためのプランを考えて提案しながら、一緒にそれをみつけることが設計者の役割だと思います。

便利さと豊かさは必ずしも同じではなく、むしろ不便の近くに豊かさはあるのかもしれない。それを子供の頃の暮らしの中で、体感的に記憶していたのだと思いました。便利になっていく世の中で、そんなことを考えながら今日もプランを考えています。

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