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ACTIVITY REPORT

活動報告

「京都工芸繊維大学ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を受講して

「京都工芸繊維大学ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を受講して

【はじめに】
私は香川県建築士会会員であり、自営業で建築活動をしている者です。建築士会の方々には日頃から事務局の方をはじめ会員の皆様にはいつも大変お世話になっております。今回の記事については少しでも会員の皆様のご参考になればと考えて寄稿させていただきました。(一建築士会会員として寄稿いたしますので匿名希望でよろしくお願いいたします。)
私は昨年度から個人で建築活動しておりますが、県建築士会が年度毎に実施されている事業活動には(総会はじめ支部活動等)には都合つく限り、積極的に参加させていただいております。個人事業で建築活動を継続していく為には建築士同志間の意見交換の交流や情報収集の必要性を感じて県建築士会に所属しております。県建築士会の皆様に少しでも参考になる情報をご提供させていただくことが建築士活動をする上で有益にならないかと考えて率直な意見として今回、寄稿させていただきます。

【受講志望の動機】
個人で独立して建築士事務所を開業し、住んでいる地域で建築活動を始めて感じたことは、古く使われない建築物が地域に多く存在し、加速度的に増加している現実に直面している事でした。近年の社会情勢の急速な変化、少子高齢化による人口減少社会が大きな一因でありますが、古い建築物が解体され消滅していく現状には深い絶望感と無力感を感じられずにいられませんでした。こうした状況に自分が建築士として出来ることは何か常に思い悩んでおりました。私は地域での市民活動にも積極的に参加しており、郷土の歴史民俗研究会と文化財保護活動もしております。こうした活動を通じて「建築」を時間的に考える重要性を大変認識しております。現在、住んでいる地域においても歴史的、文化的価値があると評価できる建築物が消滅する危機にあります。私は建築士の重要な責務として古い建築物の価値について建築士職能(保存・再生・維持・活用・解体等)を総合的に勘案して適正に判断できる人材育成が必要不可欠と考えます。この課題を解決していくことが、未来に向けての持続可能な社会を継続していく上で建築士に求められる重要な役割であると考えております。今回「京都工芸繊維大学ヘリテージ・アーキテクト講座」という社会人リカレント教育カリキュラムを知ったのは、地元の建築士の先輩と建築活動について話し合った時に講座の存在を教えて頂きました。現状の自分には建築物の保存・再生・活用等について判断できる専門的知識や経験が不足している為、専門的技能の習得の必要性を感じたのが受講志望した大きな動機です。

【昨年度の講座概要について】
今年度の講座概要については京都工芸繊維大学のホームページ「ヘリテージ・アーキテクト講座」をWEB検索で調べることができます。WEB検索で解らない昨年度受講した感想等を述べさせていただきます。受講生は書類選考により応募された30名の方が参加されました。30名の方の地域構成、職種、年齢層、男女比率等を下記に示します。
(地域構成)北海道から中国地方まで全国的に広範囲(京都はじめ京阪神の方やや多め)
      ※ちなみに四国地方からは私一名のみ参加でした。
(職種) 大手設計事務所、大手ゼネコン、大手デベロッパー、住宅メーカーの設計職
     大学研究職(東京大学建築学科の博士課程の方がおられました。)
     自営業の建築事務所の方、中小企業の設計職の方
     国(国交省地方整備局)県、市自治体職員の方
(年齢層、男女比率)30代~70代前半、女性は7名おりました。
     ※京都工芸繊維大学の卒業生OBが昨年度は30名中10名いました。
 大学の先生方は職種、年齢、性別に偏りなくバランス重視されて受講生を選考されている印象を受けました。通学の利便性を考えると京阪神地方の受講志望者がかなり多いと感じました。

【講座概要】
講師陣は京都工芸繊維大学教授の方々(田原幸夫先生-東京駅保存再生、花田佳明先生ー日土小学校の保存再生)が主として御講義していただきました。
他の講師陣についての詳細はHPでご確認ください。いずれの方も日本の建築界における著名な建築研究学者でもあり設計実務経験もある素晴らしい講師陣です。外部からも講師招聘しており日本郵政主席建築家の黒木正郎先生や建築家の青木淳氏(現京セラ美術館館長)という著名な方々から建築物の保存再生について貴重なお話を拝聴することが出来ました。
(講座内容)
講座内容は大きく3つに分かれております。(昨年度事例)
 1)保存、再生についての学術的基礎知識を学習する座学講義(現地対面形式、在宅リモート講義の併用)
 2)保存、再生プロジェクトの実例見学とプロジェクト担当者による現地説明会
  ・コンテナ町屋(設計:魚谷繁礼氏 京都工芸繊維大学特任教授)
  ・郭巨山会所(設計:魚谷繁礼氏 日本建築学会作品賞受賞)
  ・京セラ美術館(青木淳氏改修増築設計)
  ・祇園甲部歌舞練場(大林組設計施工 改修工事中現地見学説明会)
 3)保存・再生プロジェクト実践課題を班毎に成果物として発表、提出
  ・京都市考古資料館(設計:本野精吾)の保存再生
  ・櫻谷(おうこく)文庫-日本画家(京都近代画壇)の木島櫻谷の画室改修
  ・九条山ポンプ室(設計:片山東熊)の保存再生
 上記3課題を30名が1班5名で計6班に分かれて実践課題に取り組む
 ※個人的な感想としては3つ目の実践課題が5人で定期的に何度も課題内容について討論したり、資料作成するので打合時間調整や意見のとりまとめで大変でした。

【受講にあたっての留意事項】
・書類選考により受講生を選抜しますのでホームページ等から受講要件を丁寧に確認することが重要です。(受講資格要件等)
・選考書類については「受講志望動機」について小論文が必修となっております。自身の建築物についての保存・再生の考えを建築的知識や自己経験を踏まえて簡潔明瞭に記述することが大切であると考えます。
・受講して一番苦労したのは、仕事とのスケジュール調整です。土日の講習なので平日に確実に仕事の区切りをつけて講義に専念するが大変きつかったです。(東北や関東地方の受講生の方は講義前日には京都入りされていたので皆さん大変だと思いました。)
・香川から京都までは移動時間で4~5時間かかります。講義は10時半開始なので朝6時始発で10時前に大学に到着できました。5時半で講義終了なので夜11時過ぎに香川に
 帰宅できるので、何とか日帰り通学を私の場合できました。(因みに私は高速バスとJR在来線の乗継ぎで通学しました。)
・受講費用については受講料、移動費、宿泊費が経費としてかかりますが、私の場合は厚労省の教育訓練給付金と地元自治体の中小企業助成金(人材育成枠)を活用することが出来ました。(自己負担分はかなり抑えることが出来ました。)自治体等のホームページを随時チェックすることが重要です。
・講義内容の雰囲気を掴みたい方は京都工芸繊維大学のYouTubeチャンネル「Kyoto Design Lab」にて保存再生学の講義が視聴可能です。(便利な世の中です。)
・以上に述べた留意事項はあくまで前年度の事例ですので同じと限りません。逐一最新の情報を確認するようにしてください。

【さいごにまとめ】
 建築士として活動をされている皆様にとって仕事と両立して勉強することは非常に大変なことであると思いますが、建築物の保存・再生・維持・活用等に関心のある方にとっては自信を持ってお勧めできる講座と考えます。私自身が感じたことは日常と違う「建築」を考える環境に身を置くことで新鮮な気持ちで全国の同じ思いを持つ方々や素晴らしい先生方と交流できたことが建築士人生にとって貴重な収穫となりました。又他の受講生の建築に対する取組む姿勢をみて自身の考えや取組みに対する甘さや不十分さを痛感いたしました。今後の自身の建築士としての活動について自己研鑽、切磋琢磨する思いを強くいたしました。又、自分の思いに共感して一人でも多くの建築物の保存・再生に関心を持つ建築士が増えることを期待いたします。

以上を持ちましてご説明を終わらせていただきます。 敬具


課題現場見学で受講生と思案する田原先生(京都市考古資料館)


京セラ美術館にて現地説明する建築家 青木淳先生(ピンクのシャツの方です)

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